生きよ 堕ちよ

高校留年~プータロー~文系大学~再受験し医師~内視鏡に魅せられ消化器内科へ

痛恨、悔恨、回顧

今日は日直。結構落ち着いており、新規入院は0だった。

 

先日盲腸のLSTのESDを行った。切除自体は問題なく行えたが、一部筋層が露出していた。1cmもないため、ほっとこうかと思ったが、もともと筋層がペラペラな部位であり、向こうが透けて見えていた。

早期退院を希望しており、深部大腸では穿孔していなくても腹痛を起こし、熱が出ることがちょいちょいあるので、クリッピングしておくことにした。

f:id:mfuku4585:20171209121452j:plain

クリップをかけたところ、すぐ横に2mm前後の黒いスペースが見えた。

f:id:mfuku4585:20171209121357j:plain

‥穿孔だ。クリップ穿孔の話は聞いていたが、自分で経験したのは初めてだった。最初は通常のクリップを用いたが、爪がついておりその爪で裂いた可能性があるため、QuickClip proを使用して閉創した。

 

次の日は腹痛はあったが軽度であり、腹部もsoftであったが、翌々日に腹痛は増悪し、腹部もやや硬くなっていた。CTでfree airが少量あり、遅発性穿孔が疑われたため、外科に相談したが、穿孔しているとも言い難いため、腹部症状をフォローするとのことであった。しかし症状が増悪してきたため、同日緊急手術となった。

自分の仕事を終わらせて、手術を見に行くと、ちょうど盲腸を見ているところであった。腹膜にクリップが2個あり、外科の先生がつけたのかと思っていたら、僕がかけたクリップであった。骨盤腹膜ごとかんでいたらしい。

胃でomental patchをやったことはあるが、今回はomentumは見えなかったので、普通に閉創した。穿孔部は1cmほどあり、クリップをかけた部位がごそっと落ちたようで、それで腹膜にクリップが残っていたのだろう。

手術は無事終了した。ラパロアシストであり、創部は小さくstomaを回避できたのが不幸中の幸いであった。本人と家人に偶発症を起こしたことを謝罪した。今のところ、経過は良好。

多少熱が出るとしても何もせずに放置しておくべきであったと反省した。

 

これまでESDを行い穿孔で手術になった症例は他に2例ある。

1例は後期研修医の時に初めてやった症例。10年以上前でちょうどESDが普及し始めた頃であったが、後期研修医として勤務していた病院はスタッフが保守的なこともあり、ESDを導入しないという方針になった。

新しいことを覚えたいと思っていた僕はそれにがっかりし、またあまりの待遇の悪さに僕は後期研修の3年目を別の病院でしようとしていたが、パワーゲームでつぶされた。他のスタッフは降格や違う病院への転出で上手く逃げたが、僕だけが逃げ損ねた(母校に入局しようとしたが、それすらつぶされようとした)。

新しく来た先生が、前勤務先でESDを行っており、当院にも導入した。僕は自力で見つけてきた異動先をつぶされたこともあり、どこかにESDの勉強に行かせてくれと言い続けていたが、そんなことは許してもらえず、労働力としてこき使われるだけであった。

そんな折、新しくきた先生がESDをやってみるか?と言った。やったこともないくせに、本を読んでこれはできるだろうと過信していた僕は飛びついた。

初心者には普通、前庭部病変から導入するが、いきなり胃角の病変であった。本を読んで予習していたはずだったが、やはり実際やるのは全然違う。案の定穿孔した。1~2mmのmicro perforationであり、上級医がクリップで塞いだ後、そのまま切除した。

2日程腹痛が遷延したため手術となった。今思えば、あの程度の穿孔であれば保存的に経過を見れたと思うが、黎明期でまだよくわかっていなかったこともあり、手術となってしまった。申し訳ないことをした。

それ以降、僕はどんなに言われても蟄居閉門と称して後期研修医期間中はESDをしなかった。どこかのhigh volume centerに勉強に行かせてくれと言い続けたが、結局かなわなかった。後期研修後にスタッフで残れと言われたが、もちろん断った。

 

もう一例は8~9年前の症例。体部の病変で、線維化も強く結構難渋し、途中で上級医に変わった。切除時には穿孔なく終了したが、夜に腹痛が強くなり、CTでfree airがあったため、遅発性穿孔を疑い手術となった。

上級医が術中に内視鏡をして、どこに穴があいているかを見ようと言った。口側なら僕で、肛門側なら先生がやった部位だな、結構出血したからなとも言った。最初肛門側から切除し、線維化が強くなって交代したが、僕がやっていた部位で出血が多く、soft凝固でかなり止血したので、それで遅発性穿孔を起こしたと考えたのだろう。

僕もそう思っていたので、そこまでして責任逃れせんでもと思ったが、実際術中内視鏡を行ってみると、穿孔部は線維化の強い口側の部位であった。上級医は「ここか‥」と言ったきり、何も言わなかった。

手術は無事に終了したが、元々基礎疾患があってベースが悪い人であり、どんどん予期せぬ合併症が重なり、不幸な転帰をたどった。穿孔部を確認して自分が切除した部位だとわかっているにも関わらず、上級医はまったく表に出てこなかった。必然的に僕が矢面に立った。

偶発症であり医療ミスではないが、もちろん家人はそう簡単には納得できず、事務を交えて何度も話をした。勿論偶発症をおこしたことを謝罪した。私生活でも家を買おうとしており、ばたばたしていてあの頃は精神的にかなり辛かった。

偶発症をおこすと、患者のところへ向かう足が重くなるが、しかしそういう時こそ行かないといけないため、毎日複数回足を運び、ICUにいる時は1時間以上家人と話をしたことも何回もあった。

色々あったが、最終的には納得してもらえた。

 

内科の中でも消化器内科は循環器内科と並んで侵襲が高いことをやっており、偶発症が重篤になることもある。もちろん、毎回起こさないように注意を払っているが、それでも0にはできない。 心が折れそうになることもあったが、なんとか踏ん張ってきている。

 

今日の体重は77.1㎏。日直中に色々食べてしまった。