生きよ 堕ちよ

高校留年~プータロー~文系大学~再受験し医師~内視鏡に魅せられ消化器内科へ

いきなり

今日は当直。ゆっくりカプセル内視鏡読影でもしようかと思っていたら、5時過ぎにいきなり呼ばれた。日勤帯に転送依頼を受けていた急性胆管炎患者のコンサルトであった。80代後半で抗血栓薬2種類服用中と、まあまあリスクが高かった。

一時ショックになり、急性閉塞性化膿性胆管炎が疑われるため、緊急ERCPを行った。後輩専攻医に先発してもらったが、幽門をなかなか越えられない。変わろうかと言って交代したのはいいが、自分もなかなか越えられない。困ったなあ、恥ずかしいなあと思っていたら、なんかよくわからないが越えた(笑。

 

幸い、胆管選択は容易であったので、ERBDチューブを留置し、終了した。その前に別の後輩専攻医に、他科で入院中の人が胆管炎を起こしているので、ERCPを手伝ってほしいといわれていたが、諸事情でなかなか内視鏡室に降りてこなかった。

 

以前に乳頭切開を行ってあるので、ドレナージチューブだけ留置してさくっと終わるかと思っていたが、降りてきた時には血圧が50くらいしかなかった。心臓がかなり悪く、他にも色々リスクがあり、到底内視鏡を入れられる状況ではなかった。もともと使われていたドパミンを上げたが、70くらいになるが、そこから上がらなかった。ルートを複数入れたり、主治医を呼んで、Aラインを入れたりしたところ、血圧80~90になったため、今だとERCPを行った。

 

後輩専攻医が内視鏡を挿入したところ、胃の中に凝血塊を認めた。少し前にマロリーワイス裂傷を起こし、食道の粘膜が裂けて止血をしていたが、そこが再出血したと思われた。まずはドレナージだと判断し、なんとかチューブを置いて、さあ終わろうとしたら、よりによって入れ過ぎてチューブが胆管内に迷入した。そこで交代して、バルーンカテーテルで引っ張り出した。

 

チューブが迷入するくらい乳頭はがばがばで胆汁も自然に出ていたのに、胆管炎起こすかな?(総ビリルビンは高かったが、肝酵素は低かった。直接、間接ビリルビンは未検)と思い、出血性ショックを疑った。内視鏡を入れ替えて胃内を観察したが、じわっと裂傷部から出血している程度で出血は大したことなかった。抗凝固薬が入っている影響もあるだろう。止血をするか悩んだが、表面をアルゴンプラズマ凝固でさらっと焼くことにした。しかし、高周波装置の調子が悪く、出血も弱まったことから、止血は中止した。

これらが終わったのが9時半過ぎで、先程漸くご飯を食べることができた。最近、バルーン内視鏡のERCPばかりで、通常のERCPがめっきり減っていたので、不安もあったが、まだ体が覚えていた。

 

しかし最近の若い先生は、内視鏡挿入や手技の上達の速度が速い。一人前になるのに10年はかかるといわれていた寿司職人だが、寿司修行1年未満の職人ばかりの店がミシュランで星をとったいうニュースを見た。医師の世界でも、理不尽な徒弟制度は意味がないと、常々思っていたが、このニュースをみてやっぱりそうだよなと思った。センスがある人間はどんどん色々とやっていけばいい。

 

下働きにも、もちろん意味はある。手技の介助がそうだ。介助もできない人間が、実際の手技ができるはずがないし、やる価値もない。介助をしながら、どのように手技をしているのかをしっかりみて、盗みとらないといけない。しかし、介助ばかりやっていても肝心の手技ができるようになることはない。病院によっては後期研修医の間は介助しかさせないというところもあると聞く。一概に悪いとは言えないが、僕なら自分もやってみたいなと思うだろうし、他病院の同期がバンバン手技をやっていたら焦りを感じたと思う。

 

しかし、バルーン内視鏡の介助は重労働であるし、ニッチな領域で皆がマスターする必要がないものであるので、これを手伝わせる時は本当に申し訳ないなと思い、可能な限り一人法でやろうとは考えている(DB-ERCPには一人法の技術が役に立つ)。

 

昔、ファミレスでバイトをしていた時の正社員の人に聞いた話だが、ホテルで働いていた時、数年皿洗いのみをさせられていたそうだ。これに意味があるとは到底思えない。昔、自分もやらされていたから、おまえもやれという悪循環としか思えない。皿洗いしてて、料理って上達するの?

 

しかし、センスがない人間は、それを自覚して手技を行わない勇気も必要だと思う。特に医療は命に関わりうるわけだから、下手くそが自分の手技に固執して、患者の命を奪うことがあっては絶対にいけない。手技をするだけが医師ではない。深い知識と思考力を求められる領域もある(僕には無理なことだが)。

 

自分の引き出しを全て開けても解決できない場合、僕は上級医に交代を申し出ることにしている(まだ空けていない引き出しがあるのに、取り上げが速いとストレスがたまるが)。最近は、自分が上級医になりつつあり、最後の砦として踏ん張らないといけないことも増えてきて、責任の重大さをひしひしと感じている。昔、手技を取り上げられた時、いらっとしたこともあったが、上級医はこういうプレッシャーに耐えていたんだなということもわかってきた。

 

今日はこれ以上呼ばれませんように。