まとめサイトで胃カメラについてまとめている物を時々見る。そこでは、経験者が色々体験談を語っているが、一面的であり、施行者としては同意しがたいことも多いので、気になる点を列挙してみた。
〇鼻からの内視鏡の方が楽。
間違ってはいないが、経鼻内視鏡は細い分、画質が経口内視鏡と比べて劣る。最近はやりの拡大観察は経口内視鏡しかない。止血処置も経口しか不可能だし、鎮静剤を使って経口で行う方が楽。
ただし、アルコール多飲者は、鎮静剤で脱抑制となり、大暴れすることがあるので、要注意(食道癌のリスクファクターの一つに、アルコールで赤くなる人(フラッシャーという)があるが、アルコール多飲者の食道癌患者に内視鏡治療をしようとしたら、脱抑制となったことが数回ある。そういう人は手術室で全身麻酔下で行う必要がある)。
僕自身、外来では経鼻内視鏡を積極的には勧めていないが、自分がドックで受ける時は経鼻で受けた(笑。鎮静があれば、鎮静を選んで経口で受けたかったが。
麻酔をしっかりすれば、鼻の痛みはほとんどない。僕自身まったく痛くなかった。
〇鎮静剤を使うなんて‥
鎮静剤に抵抗がある人がいるが、要は睡眠剤だ。使い過ぎると息が止まるが、そこまでいく人はほとんどいない。リスクは0ではないが、それを言い出すと、薬にリスクが0なものはない。嫌なら拒否することはもちろん可能。使った後は車の運転は止めてくださいね。
〇大腸内視鏡の方が楽。
それはケースバイケースとしか言いようがない。簡単な大腸の人は大腸内視鏡の方が楽だが、難しい大腸の人は胃カメラの方が楽なこともある。胃カメラの方が楽だったと言われたこともあるし、その逆もある。
〇医師の腕によって変わる。
個人的見解だが、胃カメラの技術に関してはある程度数をこなせば、大きな差はなくなってくる。そこが大腸内視鏡とは違うところ。大腸内視鏡は技術の差が大きいし、挿入法の本も多々出ている。個人の腸の違いも大きい(日本人は腸が長めで難しい)。
よっぽどセンスがない者以外は、胃カメラは誰がやってもそう大差はない。むしろ、受ける側がうまく力を抜けば、検査は楽になる。
食道に入る時が一番しんどいが、力が入るとこれが難しくなる。軽く押してじっと力が緩む瞬間を待つが、いつまでたっても力を抜かない人がいる。必然押さざるを得なくなるが、ドアを開けさせまいと一方は押し、一方は開けようと反対から押す状況を想像してほしい。開いた時にはどうなるだろうか? 勢いがついて、急に部屋に入ってしまうことになるのは自明だが、内視鏡も同じような状況となる。そのため、反射も増悪するし、患者もしんどい思いをする。
〇呼吸しようとしても麻酔で喉が動かない
これは完全なる誤解。そんな麻酔は危なくて使えない。呼吸は普通にできる。
〇バリウムの方が楽
嘔吐反射はでにくいが、台の上で体位を頻繁に変える必要があり、一概にそうとも言えない。X線の被爆もある。微細な病変を見つける能力は胃カメラよりはるかに劣る(検診以外では、当て物の研究会に出すためや、どうしても胃カメラを受けたくないという人に行っているくらい。胃癌術前に時々外科の先生がやっているが、件数は減っていると思う)。
〇若いから胃癌はない。
少ないのは事実だが、皆無ではない。特に萎縮性胃炎をベースとしない未分化癌は若い人にも見られる(いわゆるスキルス胃癌もこのカテゴリーに入る)。ちなみに若者の癌は進行が早く、老人の癌が進行が遅いというのはまったくの誤り。
〇カプセル内視鏡ではわからないの?
僕自身、カプセル内視鏡の読影をやっているが、カプセルは自然に転がっていくのみで、今のところ自分で動かすことはできない(動くものが研究されているが、しょぼいおもちゃにしか見えない)。そのため日本では管腔が狭い小腸と大腸にしか行われていない。受動的に動くカプセルで管腔の広い胃のすべてを見ることは今の段階では難しい。小腸にはいい検査だが、大腸には正直まだ微妙(大腸内視鏡の下手くそな外人にはよいのかもしれない。下剤も通常の大腸内視鏡より多い量が必要だし。うちの病院ではやっていない)。
〇ずっと、えづいてしんどいで~。
これは嘘。嘔吐反射は人によって程度差があるが、徐々に落ち着いてくる。
〇大学病院では医学部生の練習台になる。
僕が学生のころはモデルを使って練習はしたが、もちろん人間にはしたことがなかった。僕が研修医のころは緩い時代だったから、初期研修医がやったりしてた(それをしてなかったら、僕は消化器内科を多分選んでいない)けど、今の制度ではまずさせていない(すべての病院を知っているわけではないが)。
〇つばが飲めないのが辛い
麻酔でマヒしているので、飲み込むと気管に入りむせる。口からだらだら流してください。
一部書き込みを引用する。
まず小学生の時に吹いた縦笛を想像してみてくれ
そんでその縦笛を咥えるやろ
んで喉に当たるまで押す
喉に当たったら飲み込もうとする
そのタイミングでグイグイ縦笛を押し込んでみ
それが胃カメラやで
これはひどいな。硬性鏡の時代ならそうかもしれないけど、今の内視鏡は軟性鏡でしなり、こちらが曲げているため、そんなことはまったくない。こういういい加減な記載でも、医師でもなく、検査を受けたこともなければ信じてしまい、内視鏡検査から遠ざかってしまうかもしれない。
背中をさすって励ましてくれる看護師は
おばちゃんでも天使に見える
これは全く同意。僕が受けた時も、背中をさすってもらったが、本当に楽だった。ナース相手に内視鏡の講義をする時にこれを「魔法の手」といい、辛そうな患者さんはぜひさすってあげてくださいと言うようにしている。僕もおばちゃんにさすってもらったが、好きになりそうになった(笑。
すべてを網羅できているとは思わないが、あまりに誤解が多いので、少し書いてみた。40を越えたら、一度は受けて、萎縮性胃炎があれば、是非ピロリ菌のチェック、いれば除菌をしてほしい。ピロリ菌を除菌したからといって胃癌にならないわけではないが、早く消せば消すほどリスクは下がる。
日本人が医学でリードしている分野は色々あるが、内視鏡に関しては世界一なのは間違いない(胃カメラを作ったのは日本人)。
昨日のケOラミの記事がトップにあるのはつらいので、少し書くつもりが色々書いてしまった(笑。
今日の体重は75.9㎏。夕食を食べた後にしてはまあまあかな。