生きよ 堕ちよ

高校留年~プータロー~文系大学~再受験し医師~内視鏡に魅せられ消化器内科へ

出血は止められるけど‥

今日入院する患者に病状説明をし、同意書を取るため、当直明けにそのまま病院に来ている。

寝当直の名に偽りはなく、夜もまったくコールはなかった。睡眠時間としては5~6時間程度だが、体に疲れは全くない。これまで救急当直しかしたことがないが、20年近くやっているため、夜にまったくコールがなく、寝られたことも何度かはある。

しかし、それでも翌日は体に重りをつけられたような疲労感があり、意識に一枚膜がかかったような状態で、判断がワンテンポ遅れることもある。いくら睡眠がとれても、いつ呼ばれるかわからないという潜在的な緊張感が睡眠の質を落としているのだろう。寝当直後の疲労感は家で睡眠をとる時とほとんど変わらず、これなら問題なく次の日も働けそうだ。

 

こんなニュースを見た。医師限定サイトの記事なので転載する。

以下転載(一部改変)。

『OO県OO市の「OOOO総合病院」で20X X年X X月、手術を受けた男性=当時(6X)=が翌日に死亡したのは、血液を固まりにくくする薬の投与を中止したためだとして、遺族4人が病院側に総額約X X00万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、OO地裁はOO日、医師の過失を認めて計X X0万円の支払いを命じた。

 男性は手術での出血リスクを抑えるためとする医師の説明に従い、手術の1週間前から薬の服用をやめていた。死因は脳梗塞だった。

 OO裁判長は「休薬期間は手術前の78時間程度にとどめるのが相当だった」と指摘した。判決によると、男性は13年12月25日、大腸のポリープを切除する内視鏡手術を受け、翌日死亡した。』

薬剤名が不明だが、78時間ってのはなんだ? ここは原文のままだが、7~8時間の間違いだろうか? 3日だと72時間だし。

最近は抗血栓剤の種類によっては止めずに治療をしている。ガイドラインが数年前にできたが、それ以前からもそのようにすることはあったし、ヘパリン置換をすると余計に出血するので、それなら飲ませたまま治療しようと考えることもあった。

出血は自分たちで対応できるが、脳梗塞心筋梗塞は自分たちで対応できないため、リスクを天秤にかけると継続のままの方がよいと考えることも多かった。

血をサラサラにする薬には大きく分けて抗血小板剤と抗凝固剤があるが、抗血小板剤を飲んでいるのに抗凝固作用しかないヘパリンに変更する意味がよくわからなかったが、慣習でそうしていた。

 

結構前の話だが、抗血小板剤と抗凝固剤を飲んでいる人の大腸ポリープの内視鏡治療をした。抗血小板剤は中止せず、抗凝固剤はヘパリンに置換した。治療は無事に終わり、抗凝固剤の効果が出てくるまで(最近の薬は早いが、以前からある薬は時間がかかった)、ヘパリンを投与しながら入院させていた。

抗凝固剤の効果も出てきて、さて退院という日に胸痛を訴えた。急いで心電図を取るとST-Tが上昇していた。

心筋梗塞だ。血の気が引いた。慌てて循環器内科にコンサルトした。その患者は以前にも心筋梗塞を起こしていてステントが留置されていた。そこが詰まったのかとも思ったが、緊急カテの結果新規に病変ができていたことがわかった。

治療をしてくれた循環器内科Dr.にも、ちゃんと薬は投与していたし、新規病変だからこれはたまたま今発症しただけだよと言ってもらえたが、正直ヒヤッとした。幸い、この患者は命に別状はなく、社会復帰でき、こんなことがあったのに毎年の大腸内視鏡に僕を指名した。

 

さすがに複数抗血栓剤を飲んでいたら、内視鏡治療は避けるが、抗血栓剤を飲んでいる人に対しては原則としてまったく抗血栓剤をない状態にして治療をすることはほとんどない。 

しかし、この判決は内視鏡医としては辛い。抗血栓剤を飲んでいる人の治療に対して一歩引いてしまいかねない判決だ。

 

病状説明も終わったのでとっとと帰ろう。明日は救急当直のバイトだ(もうやめたい)。