生きよ 堕ちよ

高校留年~プータロー~文系大学~再受験し医師~内視鏡に魅せられ消化器内科へ

午後の検査がないので、コロナ検査の是非について勉強してみた

居住地、勤務地共に緊急事態宣言は解除されたが、検査や外来がすぐに増えるというわけではなく、依然少ないままだ。今日の外来は一桁だし、午後の処置枠は空いている。

というわけで余裕があるのでしょうもない研究をやれと言われているけど、昨日の続きを書く。

 

新型コロナのPCR検査は絞った方がいいという意見もあれば、どんどんやれという意見もある。どっちが正しいのだろうか? 

検査前確率という概念がある。例えば、新型コロナウイルス感染を想定して検査する時にどれくらい新型コロナの可能性があるかという確率を意味する。

発熱が続いた、味覚障害があるなど症状や問診でコロナ感染を疑う人に絞って検査を行うことで検査前確率は上がる。具体的にどれくらい上がるかというのはなかなか難しいが、分かりやすくある程度極論で計算してみよう。

 

慶応大学や神戸市立中央市民病院が抗体保持率を公表していたが、大体数%だった(これって新型コロナ以外のコロナウイルスの抗体は入ってないんだろうか?)。

ここでは単純化して人口1000万人、病気にかかっている人を1%とし、検査の感度を70%、特異度を99%として計算してみる。

検査を絞らないで全員にする場合、検査前確率は1%となるので以下の表のようになる。

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1000万人中病気の人が10万人で、検査の感度(病気がある人のうち検査で陽性となる割合)は70%なので7万人が検査陽性となる。特異度(病気がない人で検査が陰性となる割合)は99%なので、病気でないのに検査が陽性となる偽陽性の人が、病気でない990万人の1%=9万9千人出てくる。

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陽性的中率は、陽性となった病気の人(青丸)÷  検査で陽性となった人(赤丸)となるので、70000/169000×100で41.4%となる。つまり検査で陽性となった人のうち、半分以上は病気でないということになる。

陽性者を皆隔離した場合、隔離される半数以上が病気ではない人だ。海外の入院病棟でスペースがなくて感染者が隔離されずに廊下に寝かされたりしているのを見たが、全例検査をして陽性者数が増えてくれば隔離にも限界が出てきてそうせざるを得ない。その結果、偽陽性者が本当の感染者になってしまい、隔離で逆に感染を拡大させるという悲惨な事態を招きかねない。

 

次に発熱、味覚障害、呼吸苦などの症状や問診で絞り込んで、検査前確率が50%まで上がったと仮定する。絞り込んだので人数は10万人とする。

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この場合陽性的中率は35000/35500×100であるので、98.6%と検査で陽性となった人はほぼ病気であるといえる。

このように問診、症状で絞り込んで検査前確率を上げることは非常に重要であることがわかる。とにかく検査をするというのは愚の骨頂で、それが精度の低い検査であれば意味がないどころか有害だ。病気でないのに、入院や隔離される人が増えてもれなく医療崩壊だ。

問題なのは、高熱が続く、呼吸苦があるなど検査前確率が高いと判断されるのに、検査が受けられない状態であって、誰彼となく検査をするのとは次元の違う話だ。

 

上記計算は医学部で習う基本的な事項だが、同じ医者でもPCRをばんばんやれというものもいれば、検査を絞り込めというものもいる。

その違いは、とにかく反政府でなんでも反対したいだけなのかもしれないし、検査キットを作って売りたい(かそういうところと結託している)のかもしれないし(胡散臭い輩が跋扈している)、医学部時代の勉強を忘れてしまったのかもしれない(僕も危ういw)。

その他にも検査をする人や機械のキャパシティーの問題や検査による感染のリスクなど多くの観点はあるが、どの観点も全例PCRを是とするベクトルには向かっていない。